転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


38 午後はなにするの?



 冒険者ギルドを出て、近くのお店でお昼ご飯。

「ねぇ、おとうさん。このあとのごようじって、なにするの?」

「ああ、そう言えばまだ話してなかったな」

 運ばれてきたものを食べながらこれから何をするのかって聞いてみたんだけど、そこでお父さんはびっくりする様な事を言ったんだ。

「色々と準備をしてからだけど、それが終わったら近くの森に行くぞ」

「えっ! いいの?」

 お父さんから冒険者登録が終わったら森に入る許可が出るとは聞いていた。
 でも最初の内は森に入る時はお父さんと近所の人のおじさんたちが一緒に行くって話だったから、僕はてっきり初めて森につれて言ってもらえるのは村に帰ってからだと思い込んでたんだよね。

「ああ、いいぞ。と言うか、これはグランリルの村で生まれた子供が冒険者ギルドに登録した時に必ず行われている事なんだ」

 お父さんが言うには、村の近くにある森は入り口付近でも魔物が出るから初心者にはとっても危ないんだって。
 それに比べてイーノックカウ近くの森は入ってすぐの場所なら魔物は殆ど出ないから、まずは比較的安全なこの場所に連れて行って森の歩き方や心構えを教える事になっているんだってさ。

「ルディーンは草原でしか狩りをした事がないから解らないだろうけど、森の中はとても視界が悪い上に足場も悪い。だからちゃんと森での動き方を覚えておかないと、いざと言う時にとても困るからな。今日のこの体験はとっても大事なんだぞ。それに簡単な生き物の痕跡の見分け方なんかも一緒に教えるつもりだけど、これらは地形や状況を観察してその特徴をしっかりと頭に入れないといけないから、どうしても周りへの注意が散漫になってしまうんだ。だから何時魔物が襲ってくるか解らない危険な村近くの森は教える場所としては不向きなんだけど、その点この近くの森でなら安全に教えられるからここで毎回初めての森体験をさせているって訳だ」

 そう言えば前に村の中に生えている木の根っこにつまずいて転んじゃったこと、あったっけ。
 森と言う事は、あんなのが地面いっぱいにあるって事だからちゃんと気をつけて歩かないと転んでばっかりになっちゃうもんね。
 それに森の中は誰も草刈りなんかしてないだろうから、きっとぼうぼうだ。
 もしかすると僕より大きい草とかも生えてるかもしれないから、周りが見えにくいってのもよく解るよ。

「そうだね。いきなりむらのちかくのもりにいくより、ここでおべんきょうしたほうがいいよ。あぶなそうだもん」

「ああ、そうだ。森は危険がいっぱいだから、今日はしっかりと学ぶんだぞ」

「うん!」

 僕は手に持った木のスプーンを振り上げながら、お父さんのそう返事をしたんだ。



 お昼ごはんを食べ終えた後、僕たちは冒険者ギルドの少し南で開かれている露天市に来ていた。
 これは森に入るために必要なものをそろえる為なんだけど、ここでまず最初に立ち寄ったのは防具が売られている屋台だった。

 そこでお父さんが手に取ったのは、何の魔物のものかは解らないけど柔軟で引っ張ると少し伸びるなめし皮の裏側に、防刃補強の為なのかなぁ? 細くて丈夫そうな糸のようなものを縦に何重も巡らせて貼り付けた物と、厚さ2ミリくらいで平ぺったい、かなり長い皮ひもがセットになっている簡単な造りの物。

 村では見たことがないタイプの防具だったし、ドラゴン&マジックオンラインの中にも登場しなかった防具だから、これはなんだろうって思いながら見ていたら、お父さんがふくらはぎからアキレス腱にかけてを守る防具だよって教えてくれて、実際にその場で僕の足に着けてもらうと、それはなめし皮を靴の上から足の裏側にまくように当てて、その周りにぐるぐると皮ひもをまきつける事で防御力を挙げるようになっていた。

「ラバーリザードのなめし皮をスチールスパイダーの糸で補強した簡易防具だ。本当ならグリーヴ付きのブーツのようなちゃんとした足装備を買った方が安全なんだけど、ルディーンはまだ小さいからな。そんな小さい防具は売っていないし、一から作ってもらうには時間がない。それに時間があったとしても来年には小さくなって履けなくなってしまうだろうから今はこれで我慢してくれ」

「うん、いいよ。でも、足だけでいいの? 僕、他の防具も持ってないよ?」

 今防具を買ってもすぐに使えなくなるって言うのは僕もそう思うからいいけど、森に入るのが危ないから防具を買うって言うなら他の場所のも買わないといけないんじゃないの? って僕は尋ねたんだけど、お父さんは笑いながらそれを否定したんだ。

「ああそれは大丈夫だ。これは戦う事を想定した防具じゃないからな」

「ちがうの? じゃあなんでかうの?」

「実はな、この近くの森で一番怖いのは魔物じゃないんだ」

 魔物はあんまりいないって言ってたからそれは僕にも解るんだけど、じゃあ何が怖くてこんなのを買うんだろう?
 その答えは意外なものだったんだ。

「この森は魔物が少なくて比較的安全だからなのか、ゴブリンとかコボルトのような小型の亜人も住んでるんだ。そしてその亜人の中でもゴブリンが曲者でな」

 お父さんが言うにはコボルトは集団行動している事が多いけど、それだけに接近する前に見つけられることが多いし、真正面から襲ってくるからそんなに怖くないらしい。
 でもゴブリンはその小さい体を利用して草むらや木の陰からこっそりと近づいて、いきなり足首を狙ってくるんだって。
 足首のような関節部分は他の所より弱くてゴブリンのような非力な亜人でも簡単に切り飛ばせるから、そうやって獲物の行動力を奪ってから襲ってくるらしいんだ。

 そんなゴブリンが徘徊しているって言うのに、冒険者って怪我をすると命にかかわる頭とか胸とかは丈夫な防具を持っている人は多いらしいんだけど、足元までお金をかけて防御を固める人はそんなにいないんだって。

「ギルドでも足装備をするようにって周知しているらしいんだけど、金がかかるのがネックでな。駆け出しの低ランクの奴ほどこの傾向が高いらしいんだ。まぁゴブリンなんて森の奥の方にまで進まないかぎりは出会わないだろうからその気持ちも解らないでも無いけど、ただ少しの金をケチって危険に身を晒すような奴は長生きできない。だからな、ルディーン。お前はできうる限りの準備をしてから森に入るようにするんだぞ」

「うん、わかったよ。ぼく、ちゃんとじゅんびしてから、かりにいくようにするよ」

 お父さんの話を聞いて、僕はたとえ将来どんなに強くなったとしても準備だけはしっかりと整えてから狩りに出るようにしようって思ったんだ。



 その後、幾つかの店を周ってこまごまとしたものを買って露天市での買い物は終了。
 そして最後に東門近くのマジックアイテムが売られているお店に行って、何か小さなタリスマンのような物が付いた紐を3本ほど買って森へ行くための買い物は全部終わったんだ。

 あっ、因みに最後のお店で買ったマジックアイテムだけど、どうやら狩った魔物を運ぶ時に使うものらしい。

「たぶんこれは今日使う事はないだろうけど、偶然魔物に出会うこともあるだろうし、その時の保険みたいなものだ」

 その紐状のマジックアイテムを掲げながら、今回は森の歩き方を教えるだけで森の奥へは行かないから、これを使わなければいけないような大物を狩る事なんてまずないだろうって、お父さんは笑ったんだ。


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